第5回「街並みの美学」トラベルスカラシップ 結果発表


【審査報告と講評】 大野秀敏 審査委員長

芦原トラベルスカラシップも今年で5年目を迎え、徐々にではあるが、このユニークな試みの意義が建築の学生や教師に知られる様になり応募者も増えてきていることは関係者として喜ばしいことである。
さて、今年は24大学から46点の応募があり、選考は、芦原会と過去のスカラシップ受賞者のなかからボランタリー9名の参加により、慎重にかつ多面的な議論を重ねて最終的に三人を選んだ。鈴木淳平君(同「マリオネット-----アナロジーモデルを用いた設計の可能性-----」、「法規制がつくる街並と慣習がつくる街並/中国」)、二宮祐介君(卒計タイトル「ガジュマルマーケット」、研究旅行計画テーマ「街並の固有性とその背景について」)、竹内吉彦(同「張りぼてと対」、「軸線空間」)である。


【第5回「街並みの美学」トラベルスカラシップ 受賞者】 (受付番号順、敬称略)

■ No.34 二宮佑介 (横浜国立大学大学院) 「ガジュマル マーケット」
  研究旅行テーマ:街並みの固有性とその背景について  訪問先:アルジェリア、モロッコ、スペイン


【講評】
二宮祐介君の敷地は沖縄県那覇市で、近年衰退が目立つ公設市場とその周辺の小売店街にPC製の格子を組み合わせてできたメガストラクチャの屋根に住宅をいれつつ地上面に日陰を創りだし、市場の賑わいを再生しようというものである。南国の気候を意識したバザール空間として非常に魅力的な公共空間のあり方を提示している。研究旅行は、イベリア半島から北アフリカの土でできた造形とでもいうべき近代以前に形づくられた集落を見に行くという。


■ No.42 鈴木淳平 (東京工業大学大学院) 「マリオネット」
  研究旅行テーマ:アナロジーモデルを用いた住民参加型設計手法  訪問先:中国


【講評】
鈴木淳平君は、名古屋の格子状街路の一街区を再構成しようとしている。デザインは操作的で理知的であるだけでなく、その結果できた住居群の空間にも説得力がある。街並の基本は、相隣関係の調整に尽きるので、提案された方法は示唆的である。中国の都市を対象として規制と建築形態の関連を探るという研究計画も卒計と連動していて好ましい。


■ No.43 竹内吉彦 (東京芸術大学大学院) 「張りぼてと対」
  研究旅行テーマ:軸線空間  訪問先:エジプト・ギリシア・イタリア


【講評】
竹内吉彦君は都心に選んだ敷地からの可能な眺めのなかからいくつかを選び出し、それを開口によって切り取り、深い窓で視対象に視線を誘導し、単に外部と部屋を繋げるだけでなく、各部屋に個性を付与しようとしている。それらを箱根細工のように組み合わせることで建築に仕立てている。研究旅行は軸線をもった建築や建築遺跡を調査することを提案し、これもまた卒計の関心を発展させたものとして好ましい旅行計画であると言える。

近年、学生の関心が内向き傾向(海外研修への関心の薄れ、都市に対する関心の薄れ)が指摘され憂慮されているが、選ばれた案を含め、応募案を見ていると、そのような懸念が憂慮に過ぎないと感じさせ嬉しい限りである。